Advanced Research Group
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これまで2回にわたってウェザーマップの開発体制やサービスの特長をご紹介してきました。第3回目となる今回は、同社が企業向けに提供している様々な気象情報サービスや産学連携の研究開発事例についてお伝えします。
(写真左から)
IMAGICA GROUP 四倉達夫(よつくら・たつお)
Advanced Research Group リサーチディレクター
オー・エル・エム・デジタル 取締役
ウェザーマップ 小林寿代(こばやし・ひさよ)
コーポレートオフィサー/技術開発事業部 兼 予報センター ゼネラルマネージャー
ウェザーマップ 山谷享(やまや・あきら)
営業本部 兼 技術開発事業部ゼネラルマネージャー
ウェザーマップ 高野雄紀(たかの・ゆうき)
技術開発事業部エンジニア/気象予報士
ウェザーマップ 渡辺正太郎(わたなべ・しょうたろう)
技術開発事業部アシスタントマネージャー/気象予報士/エンジニア
四倉:貴社では気象情報を活用して、他社と協業されていることが多いようにお見受けしました。赤城乳業さんとコラボした、暑い夏にアイスの『ガリガリ君』の食べたい度合いを予測するお天気サイト(『ガリ天』サイト)もあると聞きましたが、コラボのきっかけは?
小林:ガリガリ君が大好きなうちの気象予報士が赤城乳業さんに企画を持ち込んだのがきっかけです。その後、冷やし中華やのど飴の指数も作ったものですから、ウェザーマップは面白いことをやる会社というイメージがついたようで(笑)、毎年様々な企業様からお声がけをいただいています。 2024年は男性用日傘ブランド『Wpc. IZA』と共同で、全国各地の気温や紫外線などのデータを基に、日傘が必要な度合いを示す“日傘予報”を作りました。年々暑くなっていて、男性は日焼けよりも暑さ対策で、ニーズにマッチしたと好評でした。ほかには、サントリーの水分補給飲料『GREEN DA・KA・RA』とコラボして、地面からの照り返しの影響を受けやすい子ども特有の暑さの環境に注目した「こども気温」という熱中症啓発活動にも協力しています。
山谷:最近では、スーパーマーケットのPOS(販売時点情報管理)レジを手がけるシステム会社からの依頼が増えています。天気で来客数が変わるので、我々が提供した天気予報のデータを基に来客数を予測して、自動発注まで行っているそうです。自動発注は豆腐や牛乳、卵など賞味期限の短い品目がメインだそうで、ベテランの店長には劣るけれど、着任したばかりの店長よりは成績がよいと聞いています。
四倉:そんな社会の役に立つ使い方がされているんですね。ほかにも例があれば教えてください。
山谷:警備会社のセコムさんには、数年前から高齢者の見守りサービス向けに気象情報を提供しています。我々世代の子どもが高齢になった親を遠隔で見守るサービスで、親御さんの住んでいる地域の気温を毎時間届けて熱中症対策につなげるものです。気温が上がると子どものところにアプリで情報が届く仕組みです。
小林:太陽光発電の電力需給予測にも役立っています。
四倉:色々な場面で気象情報が使われているんですね。これからも気象データが活用される機会はますます増えそうです。
四倉:続いて、貴社の産学連携の研究開発事例についてお伺いします。まずは、私共OLMデジタルとウェザーマップさん、東京大学大学院情報理工学研究科 猿渡研究室 高道慎之介助教ら(当時)の研究チームと共同開発した『バーチャル森田さん』について教えてください。
小林:自然言語処理を用いて、たくさんの地点のひとりひとりにカスタマイズで届けられる天気予報を作りたいという渡辺の想いから2019年にスタートしました。その後、ARGとの話し合いのなかで、うちの森田正光の声を使ってどんなコメントも喋れるものを作れば親しみやすい天気予報が作れるのでは、という話が出てきたんです。
渡辺:当社は市区町村ごとに細かい予報を作っているとお話ししましたが(第1回)、全国に約1900ある市区町村の予報の文章を書くだけでも膨大な手間とコストがかかり、人間が作り続けるのは現実的ではありません。しかも天気予報はコンテンツとしての消費期限がとても短い。ほかのコンテンツであれば、YouTubeに動画をアップロードしておけば、過去のものでも作品としての需要がありますよね。でもたとえば朝の天気予報の情報は、数時間後、10時、11時にはもう古い情報です。コンテンツとしての寿命は半日も持たない。とにかく足がはやいので、常に未来のものを作り続けていかなければならないのが宿命です。今後、きめ細かい気象情報を伝えていくためには、自動で文章や音声を生成する技術は不可欠です。そのような背景があり、(当時)技術が確立されつつある音声合成の分野で、森田正光の音声を収録して音声合成モデルを作る研究が始まりました。
森田は愛知県出身で若干訛りがあって独特の話し方をするので、標準的な話し方の声優さんの声から作るより格段に難しいんです。それを東京大学大学院(当時)の高道先生と研究員の小口さんを中心とした研究チームに音声のどの区間がどの音層に当たるのか細かく処理してもらいました。地道な作業を繰り返して、少しずつモデルを改善しながら、新しく出てきた技術も使って試行錯誤しながら精度を上げることを目指しています。
最終的にはできるだけ細かい処理をせずに、簡単に森田の声色で何か魅力的なコンテンツが作れるところまでいければと研究を続けています。
◎バーチャル森田さん音声デモ(2022年)
四倉:一般的な音声合成と違って、アナウンサーにニュースをきれいに読んでもらうのとは違う。きれいな森田さんにすると森田さんではなくなってしまうジレンマがありましたね(苦笑)。
小林:天気予報は聞き流されないように、引っかかりも大切ですからね。正確な情報は伝えなければいけないけど、情報を伝えるだけの音声でもいけない。
四倉:引っかかりと明瞭性の戦いみたいな…。面白くも難易度の高いプロジェクトです。続いて、奈良先端科学技術大学院大学との「天気予報分野における言語生成に関する研究」についてもお願いします。
渡辺:取り組み始めたのは2019年、画像や音声が進んできていたのに対し、言語分野はまだChatGPTなどもなく、BERTという自然言語処理のツールが出始めた頃でした。天気予報を伝えるには、文字ベースで伝える方が効率のいい情報も多いので、言語生成でできることがあるなら早く着手した方がよいとの判断からスタートしました。
今となってはChatGPT始め、言語モデルが色々な場面で使えそうなところまで来ていますが、正確さが求められる天気予報の分野ではまだ厳しい面もあります。具体的に何かできているわけではありませんが、常に新しいものを試しながら最新技術でできることを探っているところです。
四倉:横浜国立大学・三井住友海上・MS&ADインターリスク総研・あいおいニッセイ同和損保による「台風シミュレーションを基にした気象警報注意報・被害推定および自治体向けの仮想災害訓練メニュー開発」にも協力されているとか?
山谷:高野の研究室時代の同僚が三井住友海上に就職し、そこから依頼を受けたのがきっかけです。皆さんグループ会社でそれぞれ防災部門があり、気象会社である我々と、台風の研究をしている横浜国立大学の研究室と合同で研究しようという話になりました。
過去の台風が違う経路を通ったらどのような雨の降り方をするか、例えば「伊勢湾台風が九州や関東に行ったらどういう雨の降り方をするか」というシミュレーションデータを横浜国立大学さんがすでにお持ちで、そのデータを使って「〇月△日X時X分に土砂災害警報が出た」という体で自治体の職員の方々に机上訓練をやってもらう研究です。想定では上陸何時間前、数時間後に土砂災害警報が出て、自治体の方は高齢者への避難指示を出したり、避難所を開設したり…。
高野:他の国立大学でもシミュレーションで経路の違う台風の雨の量のデータを持っていたので、私の方で地形や湿度など諸条件を考慮して、新たなプロダクトを作りました。一般公開はされておらず、あくまで企業間、自治体間での訓練です。
四倉:高野さんの人脈で新たな研究やビジネスが生まれているというのは面白いですね。(続く)