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エンタテインメント性の高い映像作りのノウハウに最新のテクノロジーで革新的な表現を創出し続けるP.I.C.S.TECH 前回記事に続き、P.I.C.S.TECHがこれまで手がけてきた制作実績について、
IMAGICA GROUP 久保田 純が、P.I.C.STECHのテクニカルプロデューサー 弓削 淑隆氏と、エンジニア&テクニカルディレクター 上野 陸氏の2名に伺いました。
P.I.C.S.TECH 弓削 淑隆(ゆげ よしたか)
株式会社ピクス テクニカルプロデューサー(上記写真 左)
P.I.C.S.TECH 上野 陸(うえの りく)
株式会社ピクス エンジニア&テクニカルディレクター(上記写真 右)
IMAGICA GROUP 久保田 純(くぼた じゅん)
Advanced Research Group ディレクター /
株式会社フォトロン 執行役員 兼 技術開発本部長
弓削:続いてご紹介するのは、2023年5月に渋谷パルコDGビル18階で行われた日本初開催のNFTアート体験型ギャラリー「Bright Moments Tokyo」で、会場の空間体験演出をプロデュースを手がけた実績です。
前段として、以前からMV制作でお付き合いのあったSputniko!(スプツニ子!)さんから、彼女が生み出すNFTアートの世界観をより豊かに表現するために力を貸して欲しいと依頼をいただいたことがはじまりです。その後、世界中でNFTアート作品をリアル展示する巡回型ミュージアム「Bright Moments」がロンドンで開催された際、Sputniko!さんのブースで空間演出をさせていただきました。
その頃、出産を経験して母になったSputniko!さんがつくっていた作品は、出産から子どもが成長していく神秘を追体験するかのように、購入後も変化していくジェネレイティブアートでした。その世界観に合わせ、ブース全体に柔らかい布をまとわせて子宮のなかのような空間を演出するとともに、足元にはビーズクッションを置いて、そこにゆったり座りながら作品を楽しんでもらえるようにしました。
久保田:来場者は、まるでお母さんのお腹のなかで作品に出会うような体験ができるということですね。とても面白い。
弓削:制作期間が2ヶ月足らずと非常に短いうえに、諸事情により大掛かりな機材の持ち込みが難しかったため、スーツケース3つに収まる機材だけを飛行機で持って行き、現地で作り上げました。このときの演出が非常に好評で、1年後に予定しているBright Momentsの東京開催で総合的な空間演出をお願いしたいと、Bright Momentsのチームから直接オファーをいただく運びとなりました。
久保田:東京開催に向けて、Bright Momentsチームからテーマの指定はありましたか?
弓削:提示された空間テーマは「おかませ」というものでした。非常に曖昧模糊としたキーワードですが、私たちはその言葉に「状況に応じてしなやかに変化し続けること」というメッセージを感じました。同時に、日本ならではの四季や文化と作品のコラボレーションで、ここでしか味わえない作品の魅力を演出したいと考えました。
上野:おっしゃる通りで、まさにそれがBright Momentsのコンセプトです。デジタルアートとの新しい付き合い方を体験として提供するというBright Momentsは、僕らとしても共感が大きかったです。だからこそ「おまかせ」というテーマでしたが、空間演出を担う責任の大きさもひしひしと感じていて。
Bright Momentsのコンセプトを肉付けできるよう、チームでディスカッションを重ね、クリエイションを洗練させていきました。
弓削:Bright Momentとのコラボレーションはとても有意義な時間でした。同じ目的を達成するチームとして、常にリスペクトを感じることで、さらなる期待に応えたいと終始良いテンションの中でプロジェクトに取組むことが出来ました。垣根を感じることなく、双方の意見を出し合い、クリエイティブが生まれて行く瞬間は非常に良いコラボレーションの実現だったと感じます。そして、彼らが感じてきた世界水準のデジタルアートに触れたことは、P.I.C.S.TECHにとっても貴重な財産になりました。
弓削:最後に紹介するのは、金沢21世紀美術館「D X P(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」※で展示された「幸せの四葉のクローバーを探すドローン」のアプリケーション開発や上映用ムービー制作、音響ディレクションの事例です。
※令和6年能登半島地震の影響により、2024年6月21日まで展覧会ゾーンの展示は中止
これは、Bright Momentsでご一緒したSputniko!さんから「一緒に作品をつくりませんか?」とお誘いいただき、Sputniko!さんのアイデアをアート作品として具現化したプロジェクトです。
四つ葉のクローバーは、発見した人々に幸福をもたらすもの。それをDX化することで、目視でなかなか出会えなかった四つ葉のクローバーを容易に見つけられるという「落差」を体験する作品です。
金沢21世紀美術館「D X P(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」にて展示中/スプツニ子!《幸せの四葉のクローバーを探すドローン》のアプリケーション開発や上映用ムービー制作、音響ディレクションをP.I.C.S. TECHが担当。
久保田:テクノロジーが進化することの是非を観客に問いかけるユニークなコンセプトですね。
弓削:アプリ開発のプロセスとして、まずは東大でテーマを研究していた作者から依頼を受け、
P.I.C.S. TECHチームは開発途中のプロトタイプの画像認識アルゴリズムを作者と検証しました。
そのうえで、四葉のクローバーを撮影するドローンに搭載するアプリを上野が中心となって構築し、高い精度で四葉を判定するAIアプリを開発しました。
久保田:確かな技術力で開発されたのですね。しかし、これがアプリとして発表されていたとすると、見る側はやはり精度が気になってしまうと思います。アートとして展示されると全く違った見方になりますよね。
上野:そうですね。三つ葉が黄色、四葉が赤色で表示される演出や、右のモニターに検出・判定中のUI情報が映し出される演出などはAIやデジタルを想起させる無機質な世界観で統一しましたが、意外と肝心の判定が間違えているところもあったりして(笑) そこも込みで作品の面白さになっていると思います。AIが間違った答えを出すこともあるというリアルを表現することにもつながっていますし。精度を求めるだけではなく、ずっと見ていたくなるような作品を目指しました。
久保田:クローバーは実際に撮影しに行ったんですか?
上野:はい。四葉のクローバーがよく見つかる場所を調査して、日光に行ったり、山の標高の高いところに行ったりして、自分で撮影しました。いろいろ探した結果、結局自分が住んでいる近所の多摩川でたくさん見つかって(笑) 途中からは毎日のように多摩川を歩き回っていました。
このプロジェクトでは、ディレクターである自分自身が足と手を動かし、映像チームやエンジニアの力も借りていろいろな手法を模索しつつ、新しい技術に片足を踏み入れながら作品をかたちにできました。アイデアとテクノロジーを軸に、コンセプトに沿った顧客体験をアートしてアウトプットできた、P.I.C.S. TECHならではの事例だと思います。
次回はP.I.C.S.techの求める人物像に迫る予定です。
●気鋭のクリエイティブ集団 P.I.C.S.TECHが今求める人材と注目するテクノロジーとは