新着記事

特集・インタビュー

P.I.C.S.TECHが手がけた先進的なクリエイション実績と制作の裏側【前編】

#PICS#クリエイティブ×テクノロジー

MTV Japanジャパンのクリエイティブセクションから独立後、ミュージックビデオやライブの背景映像といったエンタテインメント性の高い映像作りのノウハウに最新のテクノロジーを掛け合わせ、革新的な表現を創出し続けるP.I.C.S.TECH。

組織の全体像に迫った前回記事に続き、これまでの具体的な制作実績について、IMAGICA GROUP 久保田 純が、P.I.C.S.TECHのテクニカルプロデューサー 弓削 淑隆氏と、エンジニア&テクニカルディレクター 上野 陸氏の2名に伺いました。

P.I.C.S.TECH 弓削 淑隆(ゆげ よしたか)
株式会社ピクス テクニカルプロデューサー(上記写真 左)

P.I.C.S.TECH 上野 陸(うえの りく)
株式会社ピクス エンジニア&テクニカルディレクター(上記写真 右)

IMAGICA GROUP 久保田 純(くぼた じゅん)
Advanced Research Group ディレクター /

株式会社フォトロン 執行役員 兼 技術開発本部長

最先端の技術と和の伝統が融合するライブエンターテイメントショー「EXISDANCE」

弓削:はじめにご紹介するのは、パナソニック株式会社の最新技術であるハイスピードトラッキングを基盤にしたライブエンターテイメントショー「EXISDANCE」です。米国フロリダ州・オーランドで
2016年6月14日から16日まで開催された北米最大規模のAV機器展「InfoComm 2017」で発表されました。

日本を象徴する格闘技である空手と、日本のテクノロジー&カルチャーを感じさせるような身体の動きをミックスさせたダンスに、映像が高速追従し、その世界観を豊かに表現したライブショーです。

「EXISDANCE」の前身となる作品として、高速追従マッピングデモコンテンツ「Animated Cloth」が2016年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で発表され、米国ラスベガスの現地でも大きな反響があったほか、国内でもグッドデザイン賞を受賞するなど、高く評価されました。

この技術をバージョンアップさせたものが「EXISDANCE」に採用されています。当時、通常のプロジェクターだと1秒間で描写できる絵の枚数は30枚から60枚ほどでしたが、パナソニックが新たに開発したハイスピードプロジェクターは1秒間で1920枚もの描写が可能。さらに、画質に関しても明るさ
10,000lm、フルHD(1920×1080 pixcel)の高解像度を実現するとともに、2Dでの高速追従に加え、我々の開発も加わる事で回転や傾きにも対応できるシステムに進化し、より立体的な表現が可能となりました。

久保田:ダンサーが映像に合わせてアクションをしているのではなく、映像がダンサーの動きをリアルタイムで追従しているということですね。

上野:はい。「Animated Cloth」の段階では、あまり体の向きが変わる激しい動きには対応できませんでした。また、体の傾きに映像を合わせることも難しかったため、基本的には縦・横の動きに絞り、
制約のなかで表現をしていました。それが「EXISDANCE」では飛躍的に進化を遂げ、ハイスピードプロジェクターで高速追従が可能になると同時に、身体の捻りへの追従データを取得する事から、立体的な動きに合わせた映像表現も可能に。「InfoComm 2017」の本番では、そこにいた誰もが“未来を見ている”かのような、不思議な静けさと高揚感に包まれました。

久保田:空手をモチーフにした動きを取り入れているところも本作の大きなポイントですよね。

上野:そうですね。パナソニックが開発した技術を世界にアピールするうえで、やはり“日本らしさ”を表現したいと考え、着目したのが日本の伝統的な格闘スタイルである空手の動きです。

ダンサーのKikkyさんは、一流のダンスパフォーマーでありながら空手でインターハイ全国優勝の実績をもつ凄腕。彼を起用することで、空手の高速かつ多様な動きでマッピング技術の精度の高さを伝えつつ、日本のアイデンティティもアピールできました。

弓削:Kikkyさんはテストの段階からいろいろな動きを試し、しっかりとセンサーが付いてる場所やトラッキングの特性を意識したうえで表現を構築していきました。本人が楽しみつつアドリブでいろいろなアイデアを出してくれたので、実験しながらみんなで作り上げていくという工程が印象に残っています。

Kikkyさんの他にも、外部から、振付師、CGデザイナー、エンジニアなど、いろいろな人が関わり、
垣根を越えてフラットにアイデアを出し合いながら新しいクリエイションを目指したこともこのプロジェクトの特徴だったと思います。

また、裏側のテーマとして「商品開発」という観点も僕らのなかでは大切にしていました。発表したアイデアをパッケージ化して世の中に広めていくことを前提に、技術サポートの仕組みや組織作りもパナソニックと一緒に検討していきました。

久保田:実際のところ、来場者の反応はいかがでしたか?

弓削:とても好評で、ブースには人だかりができ、ライブショーの途中から早くも商談の話が始まるほどでした。そしてこのショーをきっかけにアメリカで大人気の某テレビ番組からもオファーがあり、
Kikkyさんとともに出演させていただきました。

さらに、2018年にはパナソニックの創業100周年を記念し、ハイスピードプロジェクションマッピングでボルダリングを演出した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」をプロデュース・ディレクションしました。

パナソニックとP.I.C.S.TECHの共同開発によって実現したハイスピードプロジェクションマッピングのソリューションは、エンタテインメントの領域で今後さらに大きな可能性を秘めていると思います。

工学院大学 キネティックウォール「THE WALL」

弓削:続いてご紹介するのは、工学院大学 新宿キャンパスのアトリウム空間リニューアルに伴って
2020年に制作した「THE WALL」。壁面の凹凸が変化して発光するとともに、映像を投影したり、さらには音を合わせたりすることで、多彩な表現を演出できるキネティック・ウォール(動く壁)です。

当初、大学からお話をいただいたときは「アトリウムをプロジェクションマッピングができる空間にしたい」という依頼でした。そのニーズを踏まえたうえで、大学が工学・建築・情報の学びの場であることも考慮し、それら要素を掛け合わせ、立体的な形状で動きがあり、情報を視覚的に表現・体験できる“環境創造装置”として「THE WALL」を提案しました。

久保田:大学のオーダーに対して非常に発展的な提案をされたのですね。普段はどんな展示がされているのですか?

弓削:常設のコンテンツとして、大学周辺の天気や風向きの情報をAPIで取得し、それに合わせて壁の動きや色、投影する映像や音を変化させています。その他、災害情報や電力使用量など、さまざまなパラメーターで壁の動きやLEDの色を変えることが可能。この場所ならでは環境の変化がオブジェクトで表現されることで、キャンパスの象徴として、常に変わり続け、学生たちに愛されるものになればと思っています。

久保田:単なる映像表現だけではなく、実際に動く壁も企画し・設計・制作実現されたところが
THE WALLの特徴ですね。

弓削:おっしゃる通りです。僕らが設計した基本設計を元に、プロトタイプ制作を作り、制御までの実現を、一緒にしてもらえる長野県のパートナー会社にご協力いただきました。プロトタイプを作ったところでオブジェクトが動くときの音が意外とうるさいとか、LEDの発光があまり美しくないとか…さまざまな課題に気付き、部材や一つひとつのオブジェクトの大きさを微調整しながらテストを重ねていきました。

久保田:
現在はTHE WALLを使い、学生がデジタル表現を競うコンペティションも開催されているそうですね。

上野:はい。ピクスと工学院大学が主催し、キネティックウォールを用いて、工科系分野に捉われず、文系の大学、美術大学の学生や、本分野に興味のある・高校生、大学生がアイデアを可視化させるコンペティションイベントを開催しています。常設コンテンツを展示するだけでなく、誰もが実際に触れられるものにするということは、THE WALLの立案当初からの重要なコンセプトでした。

キネティックウォールおよび、LED照明の動作UIは、ハードウェアの挙動を映像信号でコントロール可能です。シンプルなシステムにすることで、エンジニアリングの専門知識を持たない人でも、アイデア次第で多様なデジタルアートを実装できます。

コンペティションの前には、参加者の学生さんたちにオンラインでTHE WALLの実装方法を教え、打ち合わせを重ねて当日を迎えました。みなさん柔軟なアイデアでそれぞれ全く異なる作品を生み出していて、主催する私たちも刺激をもらえます。プログラムを1から書いて壁を動かす学生さんもいれば、
PowerPointのスライド送りで壁をコントロールする人もいました。

久保田:実際に学生さんが活用できる学びの場になっているんですね。自分のアイデアでTHE WALLを動かしたという経験は、学生さんにとって宝物になりそうです。

弓削:そうですね。THE WALLは「納品して終わり」ではなく、完成してから「どう生かすか」が大切です。今後さらにいろいろな人を巻き込み、学びやコミュニケーションが発展する場になるよう、引き続きメンテナンスや運営、新たな企画を、我々も楽しみながら進めていきたいです。


後編では、日本初開催のNFTアート体験型ギャラリーや高い精度で四つ葉のクローバーを判定するAIアプリなどをご紹介します。

P.I.C.S.TECHが手がけた先進的なクリエイション実績と制作の裏側【後編】

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

プライバシーポリシー

Copyright © 2021 IMAGICA GROUP Inc. All rights Reserved.
ショップリンク
ショップリンク
ショップリンク
ショップリンク